血液内科シニアレジデント

1. 血液内科の概要と認定情報

当科は日本血液学会研修施設に指定されています。

急速に進行しつつある超高齢化社会の出現と共に、造血器疾患も変貌し続けています。また、近年の免疫学、分子生物学の進歩により、疾患の病因の理解が深まり、それに伴って実地臨床においても治療法が大きく変化してきました。例えば造血器腫瘍の原因を癌遺伝子に求めていた1970年代は異常遺伝子を有する腫瘍細胞根絶のために新たな抗腫瘍剤が開発され、寛解導入率が飛躍的に改善しました。寛解導入後も再燃する患者さんに対しては治療強度を上げた多剤併用療法が臨床試験として取り組まれ、治療の標準化が推し進められました。1960年代に蓄積された基礎免疫学を背景に、1970年代に当初難治例に対して導入された造血幹細胞移植療法の効果は、かなりの部分が同種免疫によるものと判明し、骨髄非破壊的前処置による同種造血幹細胞移植の開発や樹状細胞を利用しての特異的CTL療法の検討へと分野が拡大してきています。一方で腫瘍化の分子機序が解明され続けており、分子標的を攻撃する薬剤の開発も進んできています。造血幹細胞移植治療でしか救命出来なかった慢性骨髄性白血病がtyrosine kinase inhibitor(imatinib, nilotinib, dasatinibなど)の出現により、いまや治療のアルゴリズムは全く異なった治療選択図となりました。21世紀は同種造血幹細胞移植で代表される免疫療法と、腫瘍化に関連する種々の分子を標的とした分子標的療法を両輪とした治療戦略が大きな柱になるものと考えられます。

当科は400床規模の急性期病院の中の血液内科として、当院の使命の一つである癌拠点病院の一翼を担っていく必要があります。高齢化社会の中で、入院・外来患者さんの多くが高齢者で、骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病と悪性リンパ腫の比率が高いという特徴を有しております。昨年度の実績を見ても、非ホジキンリンパ腫の中ではわずか数パーセントのみといわれるマントル細胞リンパ腫が5例入院と、この規模の病院としては興味深い症例の入院があります。表面抗原解析、遺伝子解析を積極的に利用した正確な診断が可能で、さらに隣接する中ノ島クリニックのPET-CT検査による正確な病期診断を踏まえて、それぞれの疾患に最適な治療を提供することをモットーとしています。

同種造血幹細胞移植の治療成績にはスケールメリットが大きく影響することから、当院で早急に開始する予定はありませんが、化学療法の延長線上にある自己末梢血幹細胞移植は平成23年より実施しています。分子標的薬を中心に、これからも実地臨床に利用可能な新規薬剤を積極的に導入し、診断・治療の質を向上させていく予定です。

当科で後期研修を希望される先生方には、造血器腫瘍の基本的な診断と治療の勉強をしていただき、さらには自己末梢血幹細胞採取、および自己末梢血幹細胞移植の実際を経験していただきます。また、全ての患者さんに常に積極的な治療が最適というわけではありませんので、緩和医療チームとの二人三脚で緩和医療を実践していく中で、医師としての基本を学んでいただけるとありがたいと思います。

2. 後期研修医に対する指導方針

  1. 造血器腫瘍を中心に血液疾患一般の理解と診断・治療方針の立案ができる。
  2. スタッフの指導の下に主治医の一人として診断、病状説明、治療方針決定ができる。
  3. 興味ある症例については学会報告は勿論、できる限り論文化する。
  4. 初期研修医に対して血液疾患の概念の説明や診断・治療方針の指導ができる。
  5. 自己末梢血幹細胞の採取と移植を経験する。

3. 診療科からのメッセージ

1. 部長からのメッセージ

皆さんは自分の専門を決めるときに何を大事にしますか?

私は大学で初期研修を開始した内科が血液内科で、次に赴任した病院で血液疾患を数多く担当したことが縁で、大学に戻るときに血液内科を選択しました。勿論、それだけが理由ではなく、血液疾患患者に対して奮闘している先輩の姿が印象的で、また、重症感あふれる患者さんが化学療法でドラスティックに快方に向かっていくところが魅力と感じました。当時3K(きつい、汚い、危険)と言われた血液内科の研修ではありましたが、自分が一所懸命になることで元気になって退院されていく患者さんは、3Kであることを忘れさせてくれました。この印象はその後の血液疾患治療の中でも裏切られることはなく、他の病院で1980年代初期に立ち上げた骨髄移植治療でも、従来の治療では直らない患者さんが完治する経験の中で充実感を味わうことができました。

血液内科を専門にしている医者は誰でも言いますが、確かに血液内科の臨床はベッドサイドとベンチの距離が短い領域です。専門誌に新しい知見と紹介された技術が数年の後には臨床で当たり前のように利用されることは、検査・治療の分野で数え上げればきりがありません。常に新しい知識に接触することができることは知的欲求を満足させてくれるでしょう。

医療にはサイエンスとしての最新の医学と、人類愛とでもいうべき哲学の両方が要求されます。感性にあふれた、かつエネルギッシュな若い先生に来ていただき、一緒に血液内科の臨床を推進していきましょう。

2. 先輩医師からのメッセージ

初めまして。平成10年滋賀医科大学卒業の三好です。関西電力病院のホームページをご覧いただきありがとうございます。病床数約400床の中堅病院である当院は平成25年5月に新病院に生まれ変わり、最新の設備と快適な居住空間を兼ね備えた病院です。私の所属する血液内科は先端医療センターにおられた永井先生を部長に迎え、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群などの造血器悪性腫瘍を中心に治療を行っています。本院血液内科の特徴は、典型的な上記疾患だけでなく、あまり知られていない疾患や症状に遭遇することが多い事です。そこで、研修医の先生に学会発表していただき経験を積んでいただくよう実行しております。

血液内科の特徴・魅力を何点か挙げさせていただきます。

  1. 造血器腫瘍を主に診療する科ですが、多々ある悪性腫瘍、つまり癌種の中で造血器腫瘍に起こっている遺伝子の変化は他の癌に比べ、シンプルなものであると考えられています(CMLのBCR/ABLが典型例です)。癌を理解、治療するための入り口になる。
  2. 血液内科の患者様は治療歴が長いため病気の理解度が高い方、向かい合う方が多く、患者様との話し合いにより治療選択が出来る場合があり、非常に動機づけとなります。
  3. 手術が無く、検査が少ない科であり、ベッドサイドでの医療が出来ます。骨髄検査により診断が出来、その後の治療もベッドサイドで行っていくことが出来るため病棟スタッフと検査部のパワーで患者様に回復してもらえる機会が多いです。また重症化した時にICUにて勉強することが出来ます(当院では救急専門の先生がいらっしゃいます)。
  4. 基礎実験で判明した病態のメカニズムに沿った新薬が開発され続け、病勢を押し戻すことができることがあります。また実験と臨床が近いのも特徴です。
  5. 最後に移植医療。移植医療は殺細胞治療と免疫による悪性細胞除去の組み合わせであり、免疫医療が実現している数少ない医療です。当院では同種移植はできませんが、自家末梢血幹細胞移植を積極的に実施しています。(同種移植を学びたい方は、京都大学付属病院での研修の続きを依頼する予定です)。

以上のように色々自分のニーズに合わせた進路を考えていける科ですので、選択に考えて頂ければ幸いです。

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