骨盤臓器脱メッシュ手術(TVM手術:ティーブイエム手術)について

膀胱脱について

骨盤内臓器(子宮、膀胱、直腸)を支えている靭帯などの支持組織が弱くなって膣内に下垂してくることがあります。ひどくなると膣から体外に脱出してきます。出産や加齢で骨盤底が緩むために、膣から子宮が出てきたり、膣の壁と一緒に膀胱や直腸が下がってきたりする状態です。

骨盤内臓器脱と総称されますが、下垂・脱出してくる臓器によって子宮脱、膀胱脱(膀胱瘤)、直腸脱(直腸瘤)などと呼ばれます。

骨盤臓器脱の症状

会陰部に何か触れる、歩行時や排便時など腹圧がかかった時に不快感があるといった症状が多くみられます。骨盤臓器脱をもつ方の多くに排尿に関係する症状がみられます。そして尿失禁でお困りに方では骨盤臓器脱が合併することがあります。これはその原因となる骨盤底の支持が脆弱となり破綻を生じているという点で共通しているからです。

骨盤臓器脱の治療

骨盤臓器脱への対応としては、

  • 積極的な治療をせず骨盤底筋体操で経過をみる。
  • リングペッサリーをいれて下垂を防ぎ、手術をせずに経過をみる。
  • 手術で治療する。

このうち根治療法としては手術しかありません。
脆弱化した組織を内服治療や運動療法だけで回復させるのは困難です。

QOL(キューオーエル)疾患としての骨盤臓器脱(リスク-ベネフィット)

骨盤臓器脱は上記にあげましたような不快な症状を伴いますが、重症例以外は命にかかわることの少ない疾患です。これが悪性腫瘍であれば治療しないということは悪性腫瘍による症状悪化の確率がかなり高くなり、選択の余地はそれほどありません。しかし、骨盤臓器脱の治療を受けるかどうかは、その状態がどれだけ生活の質(QOL)を脅かしているかが重要です(こういう病気をQOL疾患といいます)。手術にせよペッサリーにせよ施行することで好ましくない合併症(おこりうる好ましくない症状やできごと)は一定の割合で起こりえます。そのリスクを考慮してもなお治療をすることの利益(ベネフィット)が勝ると考えられるときに、治療を選択されることがのぞましいといえます。別の言葉でいえばどれだけ「現状にがまんできない」と考えているかということで治療するかどうかを考慮されてはいかがですか と言い換えられます。

骨盤臓器脱の従来の手術療法

従来は、腟から子宮を摘出する方法、膀胱や子宮の周囲組織を強く縫い合わせて補強する方法、腟を閉鎖する方法などがとられていました。これらは今でもわが国では多くの施設で実施されています。しかし、縫い合わせて補強する方法はもともと傷んでいる組織を使うため30-40%の再発率がありました。

骨盤臓器脱に対するメッシュを用いた補強療法(TVM手術:ティーブイエム手術)

骨盤臓器脱はそれを支持する組織が弱くなることが原因ですから、もとの位置にもどして補強することが治療になります。そけいヘルニア(いわゆる脱腸)の手術では以前からメッシュを使った手術が標準的におこなわれてきました。子宮脱や膀胱脱も同じように位置をもどして補強することが治療になると考えられるようになりました。2000年に欧米ではじまったこの治療はすぐれた成績をのこし、2005年に日本に導入されました。使用するメッシュも改良がすすみ十分な強度をもちながら薄くて柔らかい骨盤内臓器脱専用のポリプロピレン(プラスチックの一種)メッシュが実用化されました。

下垂した臓器(腟)をこのメッシュをもちいてハンモックのように支えて治療する手術方法がTVM手術です。

今後、メッシュ修復術は、術後の痛みや体への負担が少なく再発率も低い(約5%)手術方法として主流になっていくと期待されています。

骨盤内臓器脱メッシュ手術までに

膣内の活動性感染がある場合は感染がおさまって後に、ペッサリーを留置されている方は除去後1ヶ月程度経過した後に、それぞれ手術を予定します。手術はお産の姿勢になって経膣的におこないます。この姿勢が困難な方や、全身麻酔の危険性が高い方など、症例によっては手術ができないことがあります。すでに述べましたようにQOL疾患ですので手術前によく担当医と御相談ください。抗凝固薬など中止・休薬が必要な内服薬があります。受診時にご自身の内服薬をお知らせいただきます。(お薬手帳などがあれば有用です)休薬の場合は処方されている先生に休薬の可否を確認させていただくことがあります。

子宮摘出の既往のある方も同様の手術を受けていただくことができます。

骨盤内臓器脱メッシュ修復術(TVM手術)の実際

  1. 入院

    手術前日までに入院していただき、術前の準備をします。

  2. 手術
    • 全身麻酔または腰椎麻酔でおこないます。
    • 手術は経膣的におこないます腹部に傷は残りません。
    • 膀胱側 直腸側の順でメッシュを留置します。
    • 手術時に子宮頚部を一部切除しなければならないことがあります。ただし、通常、子宮を全部摘出することはしません。
  3. 麻酔から醒めたあと帰室します。
  4. 翌日は食事 飲水の制限はなくなります。
  5. 尿道カテーテルは翌々日に抜去します。

退院後

退院後一ヶ月程度は重い荷物を持ったり腹部に力を強く入れるのは避けてください。

シャワー、入浴は通常問題ありません。温水洗浄便座は直接手術創に高圧の水流をかけるのでなければ差し支えないと思われます。

骨盤内臓器脱メッシュ修復術(TVM手術)の合併症(おこりうる好ましくない症状やできごと)について

  1. 出血

    メッシュを固定させる時に骨盤の裏側を通る血管から出血する場合があります。自然止血される場合がほとんどです。皮下出血として手術創の周辺に見られる場合があります。大きな出血の場合はCTなどの検査を施行したうえで迅速に対応させていただきます。

  2. 疼痛

    左右の大腿部内側・後壁も補強した場合は殿部にまた手術の姿勢による股関節の痛みが起こることがあります。通常術後数週間で消失します。痛み症状に応じて鎮痛剤を用意します。

  3. 膣部びらん

    腟壁の手術創にびらんが3から6ヵ月後に起こることがあります。当初約5%から10%とされていましたが、最近は減少して1%前後となっています。留置したメッシュが腟壁から露出することもあります。ときどき膣より出血が起こりますが、たいてい自然に止血されます。軽度のものであれば内服薬や軟膏などで治癒します。なかなか改善しない場合は腟粘膜の形成術が必要となる場合があります。感染症が起こった場合はメッシュを摘除する必要があります。

  4. 膀胱側へのメッシュ露出

    メッシュを留置するのは膀胱と腟壁の間です。メッシュが膀胱のごく近い層に留置された場合に、膀胱内にメッシュの一部が露出してしまうことがあります。もともと腟壁が薄く、弱くなっているために起こる合併症です。

    メッシュを摘除しなければならない場合があります。

  5. 尿失禁

    せきやくしゃみで尿が漏れる状態(腹圧性尿失禁)も骨盤底筋群のゆるみから発生すると考えられており、膀胱脱の排尿障害のためにかくれていることがあります。この場合臓器脱を修復すると、腹圧性尿失禁が出現することがあります。この種の失禁には別の治療(内服やTOT手術)が必要となることがあります。

  6. 膀胱・直腸・周囲臓器損傷

    膣粘膜を切開、剥離操作の際に癒着など影響が強い場合など、膀胱・直腸・周囲臓器を損傷する可能性があります。手術時に判明することがおおいのですが、術後遅れて判明することもあります。場合によりメッシュは使用せずに手術を終了することがあります。子宮を摘出する従来法による脱の手術の場合には約10数%におこるといわれています。術後日数が経過して判明する場合もありますが、損傷が判明した時点で速やかに修復します。直腸の損傷が後日判明した場合には外科での対応となります。そのさい人工肛門造設される場合もあります。

  7. 遅発性の痛み

    メッシュの周囲で瘢痕組織が生じて傷は修復されてゆきますが、瘢痕形成過程で過剰な収縮が生じるとそのために組織のひきつれをおこして、臀部の違和感・痛みなどを生じる場合があるといわれています。


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